きな臭い

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 一足先にホテルに戻っていた 東のもとに市原が戻って来た。  「市原さん、そっちはどうだった?」  市原が東に尋ねた。  「あ、ああ。まぁまぁだった」  曖昧な返事をする東に市原は、  「その様子じゃ……収穫なしか」  と呟いた。  すると、東は市原の肩に手をかけると、  「そうなんだよぉ。市原、聞いてくれるか?  俺が観光通りを歩いているだけで、 客引きに次から次へと声をかけられてだな。  で、物凄~く疲れたからベンチに座ったら 今度は、現地の青年から『お兄さん、大丈夫?』 って声をかけられる始末。  挙句の果て、俺の語彙力のなさが露呈された わけだ。  その青年が観光? って聞きやがったから 『ワーキング・ホリデー』と言った。  以上だ……」  東の報告に、少し呆れ気味の市原は、  「『ワーキング・ホリデー』ね」  と呟き鼻でクスッと笑った。  市原の仕草に、口を尖らせた東は、  「なんだよおまえ、今俺を馬鹿にしたな?  で、そっちはどうなんだよ。   何か収穫あったのかよ」と言った。  すると、市原は東の顔を見ながら一言、  「東さん、明日俺と一緒に来てください」  と呟いた。
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