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凛月ちゃん あなたへの感謝を手紙にすることにしました。 直接お話しできなかったことを許してね。 凛月ちゃんにあの本を貸すと約束した男の子は私の息子です。結星(ゆうせい)と言います。 そしてメモを書いたのも結星です。 高校1年の2学期から学校に行かなくなりました。 私も夫も、学校の先生にも原因は全然わからなかったの。 大人しいけれど、トラブルもいじめも無かったようだと。1学期は成績も良くて委員会の活動も積極的にやっていたと。 学校に行かなくなって家にいても部屋に引きこもるわけではなく、普通に暮らして私達とも話すし本を買いにも出かけてた。 だから最初は少し励ませば学校に行けると思っていたの。原因なんて些細なことだろうからと。 自分達が学校ありきの社会で育ってきたからね、学校は大事だよと静かに、でも必死に行かせようとしていた。 それでものらりくらりと躱すばかりでダメだったわ。 そんな間にもあの本は何回も読み直しているようだった。 結星の考えていることを少しでも知りたくて、私も内緒で読んてみたの。 結末を読んで考えが変わりました。 学校はもういい、生きていてくれるだけでいいと。 そんなふうに思うほど、結末は儚くて悲しいものでした。 そこから夫婦で結星と楽しく暮らす方法を考えた結論が1階を改装しブックカフェを開くことだったの。 ちょうど結星もコーヒーの淹れ方に興味が出てきていたのでね。 (まかないのコーヒー以外は裏で結星が淹れていたの。焼き菓子も焼いていたのは結星です。 フィルムの栞を作ったのもね。) 結星の好きなものをギュッと詰め込んだお店にしました。 小さい頃から読み溜めた本と好きな音楽と宇宙と月と星と。 ドアのステンドグラスも結星のデザインです。 親バカだけれどね、好きなものに囲まれてただただ楽しく生きて欲しいと願って。 お店は順調に回りだし、結星もコーヒーの研究をしたりと熱心に働いていたけれど、やっぱりあの本は何回も読んでいて…あの子がふっと消えてしまうのではないかという不安はずっと無くならなかった。 そうしているうちに凛月ちゃんがお店に来てくれた。 結星はひと目でわかったみたい。 たまたまお菓子を運んでいた結星が慌てて裏に駆け込むから聞いてみたら『図書委員長だと思う』とね。 閉店後、凛月ちゃんがあの本を読んでいたと知って驚いたようでした。 そして1回目のお返事で自分を思い出してくれたとわかった時、久しぶりに表情がやわらかくなったの。 凛月ちゃんのこと、色々聞いてしまってごめんなさいね。 図書委員になった頃、委員長は趣味が合って話しやすいって言っていたのを思い出して私も色々お話ししてみたくて。 結星が言っていた通り話しやすくて素敵なお嬢さんで、私も大好きになりました。 2回目のお返事を読んだらしき後、前に勧めた北海道の親戚のところへ行って学校の勉強をやり直すと言ってきたの。 “このカフェは母さんくらい歳をとってからでもできるしね”と。 そして窓から月を見上げて“また失敗したってそれだって長い人生の一欠片だもんね。…いい言葉だね”と凛月ちゃんに向かっているような独りごとを言ってました。 きっと高校で他人にはわからないけど自分にとっては深い傷を負ったのね。 私達はわかってあげられなかった。 でも凛月ちゃんは共感してくれた。 本当に嬉しかったんだと思います。 その夜中にカフェから本を破る音が聞こえました。 凛月ちゃん、お店に来てくれてありがとう。 お店のすべてを素敵と言ってくれてありがとう。 結星のことを思い出してくれてありがとう。 メモに真剣にお返事を書いてくれてありがとう。 親として学校に行く気になったのが嬉しいんじゃないの。 心の拠り所にしていたあの本の結末を自分で破り取ってハッピーエンドに変えたいと思ってくれたことが嬉しい。 こんなに書いたら凛月ちゃんは私は何もしてないって恐縮してしまうわね。 どうか重荷に思わないで、結星のありがとうみたいにそのまま受け取ってね。 結星と一緒に北海道に行って、しばらく見守ることにしました。 お店を再開したら、またぜひいらしてね。 どうかお元気で。
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