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『まあまあ落ち着いて。座って。コーヒー淹れましょうね。』 喜美子さんに促されて椅子に座った。だけどまだドキドキしている。  喜美子さんは自分のお店の本が破られたのにどうして落ち着いていられるんだろう?  私の動揺に気を遣ってくれているのかとも思ったが、そうでもなく…それどころかなんだか嬉しそうだ。  湯気の立つマグカップを持ってきてくれて、向かいに座った。 『私も前に読んだのだけど、あの本の結末はハッピーエンドじゃないの。』 熱い珈琲を啜り、喜美子さんの穏やかな声を聞いていたら心臓は落ち着いてきた。 『だからメモのお相手は凛月ちゃんの返事を読んで、結末を変えたくなったんじゃないかしら。ハッピーエンドに。』 『…そうでしょうか…。』  確かにメモには“ありがとう”と書かれている。私の返事に嫌な気分になったのではないと思いたい。  …そういえば。  大事なことを聞き忘れていた。 『あのメモを書いたのはどんな方かわかりますか?』  喜美子さんは目を伏せて首を横に振った。 『ごめんね、わからないわ。色んな方がいらっしゃるしね…読書の邪魔にならないようにお客様がひとりの時以外はお話ししないようにしていて…。』  そうだった。適度に放っておいてくれるから、このお店は居心地が良いのだ。 『そうですよね。』 『とにかく』顔を上げて私を見た。 『“ありがとう”をそのまま受け取りましょう。凛月ちゃんが言うように色んな考え方があるけど、彼にとっては力がもらえるものだったのよ。』 私を慈しむような眼差しに圧倒されてしまった。  今、喜美子さんは“彼にとっては”って言わなかった?私には男性かどうかもわからなかったけど。  本当は書いた人がわかっているのかもしれない。だから自信を持って私を慰めてくれてるのかな。  それならば…あの返事、私の思うままの返事でよかったのだと思えてきた。 『そうします。素直にありがとうを受け取ります。』 『よかったわ。』喜美子さんはまた優しく微笑んだ。
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