紅梅が咲くころ

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 境内から本殿の裏までくまなく探したが、小春は見つからなかった。  居合わせた大人に聞いて回ったら、そのような子は見ていないというばかり。その中で、手水舎の裏手から出てきた一人の男の子が、『あ、それならさっき、男の人が女の子の手を引いて出ていった』というではないか。  小さな子のことで細かいことを聞くことはできなかったが、その男の人が『お母さんが待っているって』と言ってたという。  美野は、先ほどからの胸騒ぎが最高潮に達すると、急いで家に駆け戻る。居合わせた弥吉に事の次第を告げた。  弥吉は、美野に下匹の勘太にすぐに明神へ来るように伝えろと言い置いて、家を出る。  もとより目明しの弥吉は、必死になって小春の行方と犯人を追った。父親の代から下っ匹として働いてくれていた勘太も、自分のことのように懸命に探してくれた。  だが、二日経ち、五日過ぎてもその行方は分からなかった。  そして、事件から七日ほどしたとき、御茶ノ水の水道橋付近に裸で浮いているのが見つかった。
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