紅梅が咲くころ

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 弥吉が、小春はちゃんとおっかあのどっちが好きだと聞くと、くりくりとした目でまっすぐに弥吉を見つめ、いつも「おっかあ」と答えていた。  近くの神社の祭りには、美野が赤い七分袖の鯉口に黒い腹掛け、股引に紺色の足袋の衣装を着つける。弥吉が白地に紺の水玉の豆絞りをおでこに結び終えると、「あたしきれい?」と白い歯を向ける。 「いや、そうでもない」とからかうと、「ちゃんなんて大嫌いだ」と美野に抱きついて泣いていた。  その小春が、男の子に混じって太鼓をたたく姿は、あでやかできらびやかであった。  そのかわいらしさは、見物する人に神の使いではないかと言われたほど。その小春は今はいない。  事件から四月たった時、有力な目撃情報をもとに追っていた男を、根津権現の梅の木の下で取り押さえた。だが、後ろから来た仲間に材木で殴られ、弥吉はその男を取り逃がしてしまったことがある。  古着屋横から出てきたあの男、目の下に傷があった男はあいつだった。  武家屋敷の紅梅は、冬の寒い川に、無残にも変わり果てた姿で見つかった小春が「あたしは今もここにいるよ」と、弥吉に教えてくれたのかも知れない。  弥吉は、いつの日か必ず捕まえてやるぞと決意を新たにした。
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