紅梅が咲くころ

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 弥吉は、表戸を叩く「ドンドン」という音に気付くと、「おおい、誰か来たぞ」と女房の美野を呼ぶ。水仕事をしていた美野は「はあい」と言って、玄関に飛んでいく。戻ってくると、「お前さん、仙太さんが見えました」と告げる。 「うん、誰だって」 「ええ、惣兵衛さんとこの仙太さんです。なんだかとても慌てている様子で」  それを聞いた弥吉は、布団から抜け出すきっかけの「どっこいしょ」という声を出すと、勢いよく起き上がる。 「今開けるから待ってろい」  掻い巻きの前をそろえながら、弥吉は戸を開ける。  それを待っていたかのように、土間に飛び込んできた仙太は危うく弥吉にぶつかりそうになる。 「おっと、危ねえ。どうしたい仙太」  弥吉は、素早く仙太をかわし、後ろ手に捕まえるとそんな言葉を向ける。  仙太はここまで走って来たらしく、はあはあと白い息を吐き出しながら横を向く。 「おっと、寒いな」  弥吉は戸を閉めながら、改めて「どうした」と聞く。 「親分さん」  仙太はそこで息を吸い込むと、「てえへんです」と続ける。 「うん、どうした」  まだ、肩で息している仙太に「落ち着いて話せ」と言う。 「ええ、あのですね、泥棒です」  仙太は惣兵衛の家に今朝ほど泥棒が入ったことを告げる。  弥吉は、近ごろ近辺の大店の何軒かが、数人組の強盗に襲われていることを頭に浮かべる。 「よし、仙太待っていろ。すぐに行く」  弥吉は、仙太に言い置くといったん奥に引っ込む。先ほどから様子をみていた女房の美野も、そこのところは先刻承知とばかり弥吉の出かける支度を整えていた。 「お前さん、まだ雪が残っているようだから気を付けてね」  そういって、美野は表にでて二人を見送る。
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