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自分が選ばれたというのに、当初あたしはあまりにスケールの大きな話で、実感が涌かなかった。両親が泣きながら「環境に対応し、これからを生き延びる為には多少の犠牲が必要なんだ」と国からの大金を貰ったことを話して謝っていたことも、「前世紀に実在したという赤紙を手にしたみたいだね」と学友に呆れられたことも、全てがドラマの一場面に見えた。自殺者が高層ビルの屋上から飛び降りる寸前に見るような走馬灯。
国連軍の深緑の車があたしを迎えに来て、「幸運を祈る」と言われ、これですでに運は尽きたのにとあたしが絶望したのと、彼方が憤怒したのと、どっちが先だったっけ? 朧気な記憶。だけど、真夏なのに大雪が降った朝にぎこちない笑顔でサヨナラと言って、車に乗りこんだことは、鮮明なパノラマ映像として残されている。
リアシートに座らされた瞬間、あたしは必然的に心を閉ざした……氷河期が到来した孤島のように、凍てついた大地のように。
約三百人が収容された首都研究所で、男女別に五つのグループに分類され、そこでグループEサンプル60という札を受け取った。名前は、手続き上剥奪された。
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