雪空に蒼き燕舞う

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 彼の熱に、凍りついていた心が蕩けていく。 「ああ――これで、ずっと一緒にいられる」  言葉を、繰り返し唱える。奇跡を起こす魔法の呪文のように。  ひとつに重なりあった肉体は冷たいのに、内部は熱く滾っている。 「ずっと、ずっと、ずっと一緒、一緒、一緒……」  運命の歯車は既に狂っていると思った。彼方がそこまでしてあたしを生かそうとしている。あたしに執着しているの? でも、あたしは自分が悪いとは思わないから。あたしの生、あたしの性……あたしの所為? 「×××」  彼方が呼んだあたしの名前は、あたしですら忘れていた自分自身の呼び名で。あたしを、戸惑わせる。 「違う。あたしは……サンプル60」  そう、その忌々しい呼び名。あたしを人間として認めていない人種が創り出した暗号。あたしを実験体として人権を無視した奴らの禍々しい単語の羅列。 「じゃあ僕は、サンプル61ですかね」  体温調節のできないあたしを抱き締めて、彼方が呟く。 「……サンプルは60体しかないもん」  あたしがそう言おうと口を開くと、彼方が遮る。 「貴女は人間ですよ」
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