1人が本棚に入れています
本棚に追加
彼の熱に、凍りついていた心が蕩けていく。
「ああ――これで、ずっと一緒にいられる」
言葉を、繰り返し唱える。奇跡を起こす魔法の呪文のように。
ひとつに重なりあった肉体は冷たいのに、内部は熱く滾っている。
「ずっと、ずっと、ずっと一緒、一緒、一緒……」
運命の歯車は既に狂っていると思った。彼方がそこまでしてあたしを生かそうとしている。あたしに執着しているの? でも、あたしは自分が悪いとは思わないから。あたしの生、あたしの性……あたしの所為?
「×××」
彼方が呼んだあたしの名前は、あたしですら忘れていた自分自身の呼び名で。あたしを、戸惑わせる。
「違う。あたしは……サンプル60」
そう、その忌々しい呼び名。あたしを人間として認めていない人種が創り出した暗号。あたしを実験体として人権を無視した奴らの禍々しい単語の羅列。
「じゃあ僕は、サンプル61ですかね」
体温調節のできないあたしを抱き締めて、彼方が呟く。
「……サンプルは60体しかないもん」
あたしがそう言おうと口を開くと、彼方が遮る。
「貴女は人間ですよ」
最初のコメントを投稿しよう!