《惚れる》

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《惚れる》

 初々しくもぎこちない朝食が終わり、レガンは作業着に着替えた。昨日と同じ作業着であったので油まみれであり、リンの頬が少し膨れる。 「駄目でしょ、同じの着ちゃ。洗ってあげるから、違うの着て!」 「えー別に良いじゃん。作業着見る奴なんて居ないよ」 「作業着さんが可哀そうだよ。奇麗にしてあげなきゃ」  リンに促されるままレガンは別室で別の作業着を着替えだして、油だらけの作業着を持って行った。  するとリンは胸に手をかざしたかと思えば、洗濯機よりも一回り小さい機械を想像し生み出す。  リンは着替えていたレガンへ問いかけた。 「レガン、洗剤と柔軟剤ある? 洗濯もしたいのもあるけれど、乾燥機も備え付けてあるからその性能を試したくて」 「乾燥機も付けてあるのか? すごいな!」  高性能な乾燥機付きの洗濯機にレンは笑みを零した。うりざね顔の少女の顔立ちにレガンは心を虜にさせる。 「ありがとう。じゃあ、その服貸してくれる? 一時間くらいで洗濯も乾燥機も終わるから」 「あ、あぁ……、ありがとうな」  作業着を渡す際に手と手が触れ合った。「あっ……!」二人が再び顔を赤面させて作業着が落ちる。  するとレンがすぐさま回収して洗濯機へ放り込んだ。 「え……液体用洗剤、欲しいな! あと、手に触れちゃってごめんなさい!」 「い、いや、お……おう! 液体用洗剤に柔軟剤な。待ってて!」  すぐさま風呂場へと向かい液体用洗剤と柔軟剤を取り行く。その傍らにある鏡に映るのは赤面した自分の姿であった。  はぁ……と息を出して、座り込んでしまう。 「ひ、一目惚れかよ~。俺、ちゃんと生活できるのかな?」  不思議でミステリアスで機械の羽で現れた天使の少女にどうやらレガンは恋をしてしまったようだ。レガンは見てくれも良いので付き合った彼女はそれなりに居るが、――こんなにも胸の鼓動が早まるのは知らない。  鼓動が早く収まって、顔の赤みが引くのを待ってからリンの前に現れた。リンはぼんやりとしていたが、洗濯用洗剤などを持って来たことを伝えると、すぐに礼をして入れていく。  ぐるぐると回る作業着を見ながら蓋を閉じて待つ二人。この緊張感もあるが、心臓の音が伝わりそうな感覚にレガンは耐えられなかった。 「ちょ、ちょっと店、開けてくるなっ! それから、リン!」  急いで店を開けに行くレガンは破顔した顔で約束を取り付けた。 「店が終わったら、リンの洋服探しだ。昨日の鳩時計もこの洗濯機のお礼もかねてな!」  リンはその言葉に唖然とすると嬉しそうな顔を見せて頷く。その大輪のように咲く花は可憐で美しいものだ。さらに心を引き込まれそうになる。  一つ咳払いをしてレガンは店のシャッターを開けた。するとぞろぞろと客が大勢、舞い込んできたのだ。
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