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《それぞれの客》
大勢の客が押し寄せるなかでリンはさらに唖然とした。するとレガンは張り切った様子で「じゃあ昨日の注文を受けた奴からな!」リンを招き入れて接客を一緒にする。
最初の客は漁師をしている馴染みの客だ。逞しい身体つきをしており、女にも目がないのでリンを見た途端に目をハートマークにさせた。
「べっぴんさんだな、嬢ちゃん! 今度、俺と一緒に船にでも乗らないかい?」
「えっと……あの……」
困っている様子のリンにレガンは品物であるラジオを持って来た。新品同様になったラジオに皆が歓声を浴びせる。
「ちょっと、アガーさん。リンにちょっかいかけないでくれ。まだここに来たばっかりなんだから」
「へぇ~、来たばかりなのか。どこ出身だ?」
リンは困ったように微笑みながら人差し指を立てた。その可憐な姿に周囲の皆の黄色い声が大きくなる。
「ミステリアスな子っていいな……」
「あんな可愛い子がレガンの家でな~」
「レガン、もう食っちまったんじゃねぇの?」
最後の言葉には純粋なリンはわからずともレガンは意味合いがわかってしまっていたので赤面してしまった。
はははっと笑う客たちに交じってリンが顔を伺うように目線を向ける。
「大丈夫、レガン?」
「あ、あぁ……。大丈夫だ。お前らもリンをいじめたら容赦しないからな!」
それから次の客を捌く。今度は親友のレッドだ。名前と同じく赤い髪をしたそばかすの青年は少し暗い顔をしている。
「時計直ったか? でもすぐには払えないんだ。……また父さんが博打して大負けしちゃって」
「お前の父さんの博打癖も治んないな……。いいぜ、親友のよしみだ。払えるようになったら払ってくれ。分割でも良いから」
「サンキュー! 助かるよ」
明るい顔になったレッドは新品同様の時計を手に取り職場へと向かう。彼の職場は小さな町工場で鉄を切断したり溶接したりする工場で働いているのだ。
「いいの、代金払わなくて。悪そうな人には見えないけれど……」
心配している様子のリンにレガンは客を捌きながら少し考え込んだ。確かにレッドのツケは父親の博打癖のせいで膨れ上がっている。
さすがに代金を支払って欲しいが、幼馴染でなにせ親友だ。親友が苦労しているのなら助けてあげるのが親友という者ではなかろうか。
レガンは綻んだようににっこりと笑う。
「良いんだよ。また払えるようになったら来るさ。そのときまで待っていようと思う」
「……そっか。うん、レガンがそう言うのなら、心配しないよ」
リンも同じく笑みを深めた笑う。次々と客を捌いていれば瓜二つの兄弟が現れた。
一人は金髪に碧眼の少年で、もう一人は同じく青い瞳だが銀髪だ。特に銀髪の少年が困ったような表情を見せていた。
「レガ~ン。リックの飛行機が壊れた」
銀髪の少年が金髪の少年の飛行機を手にする。確かにボロボロになっていた。
金髪の少年であるリックが泣き出しそうな表情を見せている。
「だってぇ~、ロックと同じ戦車が良いんだもん!」
レガンとリンは顔を見合わせた。
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