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《折れた翼》
遥か天の国にある、空高くある孤高の島である”ベガ”では周囲の皆がざわついていた。皆は奇麗な黒髪をなびかせた赤チェックのワンピースの少女に注目している。
少女の名はリンギル・ドリトゥイ。今年で15歳になる陶器のような肌をした、黒目の大きな少女であった。
その少女はこの国の国王であるオリオンに跪く。オリオンは白ひげを蓄えたうえで「準備は良いか?」リンギルことリンに話しかけた。
リンは決心したように頷いた。
「不安ではありますが、立派な機巧少女として生きていくために……頑張ろうと思います。そして、ベガではたどり着けなかった精巧な機械を生み出せるように努めようと思います」
「そうか。その意気だ、リンギル・ドリトゥイ。だが、忘れるなよ。……ベガは孤高の島だ。秘密を守らねば、――ベガの機密情報が漏洩する」
リンの顔つきが険しくなる。自分でもわかっているつもりだが、一人前の機巧少女となるためにベガの情報は秘密にしないとならない。
それが自分の試練となるのはわかっている。
オリオンは立ち上がった状態で「機巧の翼を見せよ」リンに命令を下した。リンは自身の平たい胸に手を当てて願いを込める。
すると背中から、鎧のような鋼鉄の翼が現れた。重圧感のある音ではあるが、滑らかさも伴わせたその音にオリオンは満足げな表情を見せる。
「うむ。これならば無事に地上に降り立てるだろう。……くれぐれも、地上の人間に見られぬように」
「はい。わかりました」
リンは鋼鉄の翼を広げ、周囲の皆へ片目を閉じた。皆が歓声を上げるなかでリンは集中した空中に浮遊することだけを考えた。
ふわりと浮き上がる感覚に達成感を覚えつつ、ぎこちなく下へ向かって飛び立つ。地上へと降下していくと共に人々の騒めく声が聞こえてきた。
頭上を見るとベガの人間たちは居ない。寂しさを感じながらどこへ着地しようかと考えていると――翼がガタリと折れてしまった。
「なぁっ!? どうしよう!!」
急降下していく身体にリンは慌てて胸に手を当ててなにかを想起した。目の前には地面が迫っている。
もう駄目か――そう感じた瞬間、ふわりと身体が浮かんだ。浮かんだかと思えば、ふわふわと弾性のある感触がある。
リンはなにがなんだがわからずにいた。
「どういうこと……? 私、死んだんじゃ――」
「良かったぜ、間に合って!」
「えっ……?」
すると目の前には茶髪でツンツンした頭をした、活発そうな青年が微笑んでくれた。唖然とするリンに青年は微笑んだままだ。
「君、空から落ちてきたけどさ。どこからやってきたの?」
うかがうような視線にリンはこの状況をどう覆そうか冷や汗を垂らした。
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