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「女、話は聞いた。奪衣婆様を怒らせた男の処遇はともかく、俺がお主の奪われた衣を取り戻してやる。名は何と言うのだ?」
「小田切椿です。よろしく、お願いします」
すでに事の成り行きは承知していたのだろう。生首は泣きながらも頷いた。
「どうしても取り戻したいんです。あのウェディングドレスは、私の花嫁衣装になるはずだったから……!」
そう話す女が、真紅の唇を悔しそうに噛みしめるのを見た。
どうした、樽谷。随分と気分が悪そうだ、酔ったせいで吐きそうか。長い話じゃない、最後まで聞くがいい。
「すると、椿。あんたはもうすぐ結婚するはずだったってことか」
「三ヶ月後に式を控えていました。あのドレスはレンタルですが、試着のために家に送ってもらったんです。それを突然あの男が家に押し入ってきて……」
幸せの絶頂で殺されたとは、俺からしてもさすがに哀れな話に思えた。鬼とはいえ、同じ女として奪衣婆も心を動かされたのかもしれない。
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