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「強い無念のため、身体は幽鬼となりこの世を彷徨い、この首だけが三途の川に辿り着きました。私はせめてあのウェディングドレスを纏ってあの世へ旅立ちたいのです」
座り直した座布団の上で、俺は腕を組んで話を整理した。
「ドレスについては、その男が持ち去った可能性が高いな。男について心当たりはあるか?」
椿が黙って首を振った。彼女を殺した凶悪な男がのうのうと生きている。それなのに手がかりはなしか。
「彷徨う身体とともに、お主が彼岸に行くためにも、この男を見つけ出さねばなるまい」
「はい、ですが」
辛そうに眉根を歪めながら、椿が紅い唇を引き結んだ。
「私は、男の死を望んでいません」
俺はあぐらを組む足で正座し直した。結婚間近で辱めを受けたかもしれず、あげくに殺された女の気持ちとしては、俺には意外に思えた。
一体、どういう心境なのだろう。
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