2.生首の女

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「男を恨んではいないのか?」 「確かに恨みは募ります。でも、この男には生きて罪を償わせたいのです」 「優しさや哀れみ、ではないな」    俺の問いに、彼女が憂いを帯びた表情で長い吐息を漏らした。 「地獄に落ちて苦しむというのは、最も重い刑かもしれない。けれど人知れず裁かれて納得できるでしょうか、私の婚約者や家族も知らぬうちに」 「あくまで人間の法に則り、万人に見える形で罪を明らかにしたいということか」  気に食わぬという理由で男を地獄送りにする。それは簡単だ。だが、勇気ある椿の主張に、俺は憎悪をいったん脇に置いた。男とウェディングドレスを探し出して、椿を彼岸に行かせたい。そう思ったわけだ。  俺は鬼だが、街暮らしが長い。残酷なことは好かぬ。だがもちろん、男が更生を拒むのであれば、奪衣婆に引き渡し、地獄で罰を受けさせるつもりだ。  あんたならどちらがいいと思う、樽谷?
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