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気が付くと、樽谷の思考を覗き込むように、鬼柳の両眼が見据えている。
本当に地獄があるのだろうか、だとしても証拠は全て始末したんだ。何をどう調べて樽谷に辿り着いたかは分からないが、所詮は鬼。椿の話を嘘っぱちだと言い切れば、仲間割れを起こすに違いない。
何とかこの場を逃げだそう。異様な空気に飲まれていたものの、樽谷は必死で頭を働かせていた。椿の温情に甘んずることを、数々の犯罪に手を染めきた樽谷の自尊心が邪魔をした。
見下した態度の鬼柳を睨み付け、樽谷はなけなしの気概を示した。
「鬼柳。あんたも、あの世の連中も騙されているんだ。椿とおれは最初からいい仲だったんだ。おおかた結婚が嫌になって自殺したんだろう。喧嘩別れしたおれを逆恨みしてるだけだ」
たっぷり酒を飲んだはずなのに、噓を考えるうちに舌が乾いてきた。
「おれは、柳のような虫も殺せぬいい人間の方が好きだ。さっきはあんなに面白おかしく酒を飲んだくせに、仲直りしようじゃないか」
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