3.誰が鬼か

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 真紅の箱が、いよいよ大きな音を立てる。  その蓋の隙間から、紅い液体が流れ出してくる。ないはずの椿の心臓が動くように、祭壇の頂上から溢れて、白い布を鮮やかな血で染め上げていく。  あの日の記憶が、樽谷の脳裏にフラッシュバックした。  トイレか風呂場か、路地裏の窓が開いたままだった。  椿の部屋だ、三階と思って油断したのか。  樽谷の本能が、その隙を逃さなかった。  雨樋を伝って登るのは、空き巣で慣れている。    小さな部屋は、段ボールが幾つも重ねられていた。  結婚のための引っ越しの準備だろう。  部屋の主が帰ってくるのを、樽谷は待った。  日が暮れてから、部屋の明かりが付いた。  樽谷は息を殺して、椿に近づく。  振り向いて驚いた椿の眼が、恐怖に歪む。  樽谷は、鋭利なナイフをちらつかせた。 「騒ぐな、おとなしくしろ」  そういえば、言うことを聞くだろう。  素直に樽谷のものになってくれる。  そう高を括っていた。  
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