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真紅の箱が、いよいよ大きな音を立てる。
その蓋の隙間から、紅い液体が流れ出してくる。ないはずの椿の心臓が動くように、祭壇の頂上から溢れて、白い布を鮮やかな血で染め上げていく。
あの日の記憶が、樽谷の脳裏にフラッシュバックした。
トイレか風呂場か、路地裏の窓が開いたままだった。
椿の部屋だ、三階と思って油断したのか。
樽谷の本能が、その隙を逃さなかった。
雨樋を伝って登るのは、空き巣で慣れている。
小さな部屋は、段ボールが幾つも重ねられていた。
結婚のための引っ越しの準備だろう。
部屋の主が帰ってくるのを、樽谷は待った。
日が暮れてから、部屋の明かりが付いた。
樽谷は息を殺して、椿に近づく。
振り向いて驚いた椿の眼が、恐怖に歪む。
樽谷は、鋭利なナイフをちらつかせた。
「騒ぐな、おとなしくしろ」
そういえば、言うことを聞くだろう。
素直に樽谷のものになってくれる。
そう高を括っていた。
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