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「許してくれ、椿。殺すつもりはなかったんだ!」
胸倉を掴む鬼柳の手が、樽谷をロープ以上に締め付けた。
「……樽谷、歯を食いしばっていろ」
強烈な一撃だった。鬼柳に拳で殴られ、座椅子ごと身体が倒れた。口の中で血の味を感じたが、手足を縛られていては防ぐ手立てはない。
「分かった……全部話す。だから助けてくれ、おれだって夢を見たかったんだよ」
「自分勝手な理屈を言うな! 平気で人を不幸にする奴に、夢の価値など分かるものか」
押し殺した鬼柳の声が耳に届く。
樽谷の視界に、黒い闇が押し寄せる。椿の黒髪のようだ。
その中に確かに見た、恨みで爛々と光る眼を。
声にならない叫びの後、樽谷の首は意識の糸が切れて力を失った。
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