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「ようやく起きたか」
待っていたかのように柳の声がして、奥の扉が開いた。
「柳、てめえ一体なんのつもりで……」
樽谷は言いかけて再び声を失った。
「手荒な真似をしたな。どうしてもあんたと話をしたかったのだよ、樽谷」
白狐の面を被った和服の男が、部屋に入ってくる。
声は確かに柳だったが、声色は別人のように滑らかで力強い。頭に伸びた紅い耳と隈取りのような模様の面には、額から小さな双角が飛び出ている。漆黒の着物の裾から白い足袋が見えていて、やけに優美な足さばきで近づいてきた。
「やる気か? 柳、こんなロープなんて解いて正々堂々と喧嘩しやがれ!」
「やれやれ、短気な男め。柳というのは人に化けたときの仮の名だ」
先ほどまではいいカモだと思っていたのに、癪に障るほど朗々とした声だ。
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