1.怪異

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「俺があんたに聞きたいのは。とある女についてだ」  その先には、祭壇の上の真紅の箱が、ゆらゆらと炎に照らされている。  ゴトリ、ゴトリ。  箱の中で、物の動く音がした。  女、と言ったな。樽谷の脳裏に蘇った、柔らかい唇の感触が、急速に後ろめたさを帯びていく。  それにしても、何が入っているのだ?   ゴトゴト、ゴトゴト。  再び音がして、驚いた樽谷は座椅子の上で跳ねた。  柳が祭壇へ行き、箱をなだめるように撫でる。呪文を囁きかけているが、樽谷はよく聞こえなかった。  するとしばらくして、箱は静かになった。  樽谷の心臓はまだうるさく動いている。  柳……いや、鬼柳が座卓の向かいに腰を下ろした。  白狐の面の下はどんな素顔なのか。それすらも知るのが恐ろしくなった。樽谷は救いを求める声が出なかった。拘束されていては、何をされるか分からない。  ただの夜ではない、漆黒の闇はあの世への扉。  視界は、蝋燭の明かりが頼りだ。  現代に潜む怪異に飲み込まれ、樽谷の心は次第に屈服していった。
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