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「俺があんたに聞きたいのは。とある女についてだ」
その先には、祭壇の上の真紅の箱が、ゆらゆらと炎に照らされている。
ゴトリ、ゴトリ。
箱の中で、物の動く音がした。
女、と言ったな。樽谷の脳裏に蘇った、柔らかい唇の感触が、急速に後ろめたさを帯びていく。
それにしても、何が入っているのだ?
ゴトゴト、ゴトゴト。
再び音がして、驚いた樽谷は座椅子の上で跳ねた。
柳が祭壇へ行き、箱をなだめるように撫でる。呪文を囁きかけているが、樽谷はよく聞こえなかった。
するとしばらくして、箱は静かになった。
樽谷の心臓はまだうるさく動いている。
柳……いや、鬼柳が座卓の向かいに腰を下ろした。
白狐の面の下はどんな素顔なのか。それすらも知るのが恐ろしくなった。樽谷は救いを求める声が出なかった。拘束されていては、何をされるか分からない。
ただの夜ではない、漆黒の闇はあの世への扉。
視界は、蝋燭の明かりが頼りだ。
現代に潜む怪異に飲み込まれ、樽谷の心は次第に屈服していった。
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