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廃屋の部屋には古ぼけた畳と布団があるだけで、鬼火が電灯の代わりだ。仕方なく俺は客人である獄卒に座布団を譲り、畳の上であぐらをかいた。
三途の川を仕切る奪衣婆が、何を言いつけたのか。
獄卒の持ってきた真紅い箱を、俺はじっくり眺めた。
そう、祭壇に置いたその箱さ。
とても鮮やかだろう、罪人から絞り出した血の色だ、生臭い臭いが漂ってくる。だが俺の鼻は、微かに香水のかおりを嗅ぎ分けた。
「その箱にいるのは、女か」
「さよう、失せ物探しをして欲しい。聞くところによるとその女、衣を奪われて死んだそうだ」
俺は顔をしかめた。まさか現代に追い剥ぎは考えがたい。
……手込めにでもされ殺されたか。
それならば奪衣婆が動いた理由に納得がいく。三途の川で亡者の衣を剥ぐのは奪衣婆の役目、たかが人間の色情狂ごときが真似たのである。鬼の尊厳が許さぬであろう。
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