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「では失せ物とは、女の衣装ということだな」
「そうだ、あとは本人に聞いてくれ。報酬は先払いで振り込んである」
話し終えると、獄卒は廃屋を後にした。
部屋には俺と、目の前の真紅の箱が残された。
すると箱から女のすすり泣く声がした。若い女だ。死んだのは突然であろ
う。そのか細い声からは無念さが滲み出ていた。
依頼された以上、話をまず聞いてみるか。俺は箱に近づき、ゆっくりとその蓋を開けた。
見事な黒髪が、こぼれ出て畳の上に広がる。
鬼火に照らされたのは、女の顔だった。
青白い生首が、箱の中で震え泣いている。
年の頃は二十七、八歳か。生きていた頃は、さぞかし瑞々しく輝いた女であったろう。
前髪から覗く眉は細く、整った顔立ちは泣き腫らしても歪むことはなかった。唇だけが鮮やかな真紅だ。身体を失った首から、罪人の血を吸い上げた花のように見えた。
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