君が忘れたあの場所で

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「落とし物を届けるのを手伝ってほしいんだ」  よく晴れた公園の一角、ベンチに座っていた僕はひとりの女の子に話しかけられた。 「落とし物?」  かろうじてそう反応する。あらためて声の主を上から下まで眺めてみた。やっぱり知らない女の子だ。それとも僕が知らないと思っているだけで、本当は知ってる子なんだろうか。 「えっと……なんで僕が?」  よく知らない子に対してどうすればいいかわからなくて、不愛想な返事になる。その一方で、返事をしたことを後悔しそうになった。本当に関わりたくないなら、何も言わずにその場を離れるべきだったのだろう。 「だって暇そうだったから」  断じるように彼女が言って、なれなれしさに閉口する。確かに忙しくはない。高校も行く気がしなくて、サボっているくらいだし。家を出てきたのは親がうるさいからで、煩わしさから逃れるためだった。十代の学生が日中いられる場所はあまりない。今はまだいいけど、もっと暑くなったら外にもいられなくなるだろう。 「それ、僕じゃなくて警察に届ければいいんじゃない?」 「警察はだめだよ。そのうち処分されて終わっちゃう。それにもっと言うとわたし、物の記憶が見えるんだよ」  いよいよ相手にしたことを本気で悔やみそうになる。  物の記憶が見えるって? 「でも、方向音痴だから届けられる自信がなくて。だから助けてほしいの」 「助けて何かメリットあるの?」 「徳が積める」  きっぱりした口調に「は?」と言いそうになる。 「困ってる人を助けるのは当たり前でしょ、人として」  どちらかというと、そう言う彼女は困っているというよりも楽しそうだったけど。むやみに知らない人に関わるのはどうなんだろうと思いつつ、 「まあ、暇なのは事実だけど」 気づけばそうこたえていた。 「そうこなくっちゃ」  彼女はそう言うと、背後からぬいぐるみを取りだした。出てきたのは茶色いくまだった。だいぶ汚れている。それだけ使い古されている、と言えばそうだけど。 「これが、その落とし物?」  神妙に彼女はうなずいた。
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