君が忘れたあの場所で

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「警察に届けるのが嫌なら、落ちてた場所に戻しとく?」  そこがもし通学路なら、落とし主が気づいて拾ってくれるかもしれない。 「……そうしようかな」  場所が特定できないなら持ちさらないほうがいい。彼女もそう思ってるようだった。  公園を出て、彼女とふたりで見つけた場所まで行ってみる。なんてことない道端だ。ぬいぐるみはまだしも、しおりは小さいのによく見つけたものだ。それだけ注意深く、いつも歩いているのだろう。  彼女がしぶしぶ、しおりを戻そうとする。 ーーと、近くに小さな紙片を見つけて、思わず拾っていた。 「これ、貸出票じゃない?」  紙には返却期限のスタンプが押されている。  その下には高校名も小さく印字されていた。  星良高校、図書委員。しおりをはさんでいた本から一緒に落ちたのかもしれない。彼女の証言を考えると可能性は高かった。 「星良高校! きっとそこだよ!」  のぞきこんでいた彼女が嬉しそうな声をあげる。 「じゃあ、今から届けに行く? それとも部外者は入れないかな……」  落胆しそうな彼女を前に、「大丈夫」とこたえていた。複雑な思いがわきあがる。口が苦くなるような、そんな感覚におそわれる。 「そこが通ってた高校なんだ。まだ退学してないから、届けるくらいはできると思う」  久しぶりの高校はよそよそしく見えた。制服を取りに行こうか迷って、結局私服のままだ。なるべく部外者の顔をして、用件だけ済ませたかった。校門をくぐろうとすると、となりで彼女が足をとめた。 「ここで待っててもいいかな。ごめんね、わたしがしたことなのに押しつける形になっちゃうけど」  彼女もきっと目立ちたくないんだろう。  基本的に学校は「部外者は立ち入り禁止」の場所だ。その気持ちが伝わって、反射でうなずいていた。どちらかというと、ホッとしたかもしれない。たとえこれが人助けでも、悪目立ちをしたくないのは僕のほうも同じだった。 「いいよ。職員室に届けて、そしたらすぐに帰ってくる」  どこかに忘れ物置き場があったはずだけど、取り次ぎ先がわからない。職員室に行けば間違いないだろう。みんな制服を着てるから、私服の生徒は異質と見なされる。  学校に入ったとたん刺さるような視線を感じて、私服なのを後悔した。僕ひとりで入るなら、制服を着ていたほうが気にされずにすんだかもしれない。 (しおりをひとつ届けるだけだ)  記憶だけをたよりに職員室に直行する。担任の名前はなんだっけ。すぐには思いだせなかった。クラスは確か、二年三組。さいわいなことに扉は開いていた。外からのぞきこんでいると、後ろから声をかけられた。
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