きみに繋げる物語

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 意識を取り戻してから、ベッドの上でずっと考えていた。最高のパフォーマンスを残すことが出来ないのなら、僕は表舞台から去るしかない。死にものぐるいで頑張って、コンディションを元通りに戻したと思っていても、事故の前の体の動きなら、もっと上手く動けたかもしれないと考えてしまうに違いない。たとえそれが思い込みであって、以前と同等の動きができていたとしても、僕は納得しないだろう。あんな事故に遭わなければ、僕はもっと動けたはずなのに……という思いを募らせていって、いずれはそれが爆発して自暴自棄になるであろうことは、容易に予想がついた。  見舞いにきてくれたジムの仲間たちに頼んで持ってきてもらった、一冊のノートを読み返す。僕がプロデビューを果たしてからずっと書き溜めていた備忘録だ。トレーナーが教えてくれたトレーニング法。体調と体重を整えるための食事方法。自分なりに分析した、対戦相手や次に闘うことがあるかもしれない選手の対応策なんかが書かれている。 『どんなことがあっても、絶対に心を折らないこと。ひとつひとつの積み重ねが、明日の自分を創る』
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