1人が本棚に入れています
本棚に追加
僕と工藤の試合から月日が経って、あの頃の僕の年齢に、いまの彼はちょうど到達している。決して正しい敬語とは言いがたい口調で話す彼の内面は根本的には変わっていないとうかがえる。ボクシングのことならひたむきに突き進んだのであろう彼は、僕がつけた黒星以降の試合は全部、ずっと勝ち続けている。
わかるんだよ、やらなくても。自分のことだもの。僕はきみと違って、一度折れた心を立て直すすべを知らない。これまで折れたことがなかったから、自分の脆弱な精神には気付かないでいたのだ。
「もう決めたことだ。きみがなんと言おうと、覆すつもりはないよ」
それ以上はなにも言わなかった。約束したじゃないっすかと、工藤は涙声で訴えかけてきたが、僕と再戦を望んでいたのは、彼の一方的な主張だった。僕はひとことも、もう一度やろうとは言っていない。
最初のコメントを投稿しよう!