きみに繋げる物語

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 まただ。いまだにリングネームで僕を呼ぶのは、あの工藤しかいない。僕はボクシングをやめたんだ。そんな名前で、もう呼ばないでくれ。 「よかった、会えて……ここで待ってたら、いつか会えると思っていました!」 「なんでそう思ったんだよ」 「唱飛さんはボクシングから離れる気なんてないんでしょう。だからジムもやめずに、籍を残してるそうじゃないっすか。あれから……唱飛さんが引退宣言をしてから、半年くらい経ちましたけど、体格もキープしたままに見えますし、今もこうやってロードワークみたいな格好をしてジムに来たってことは、そのリュックにはグローブとか、入ってるんでしょ」  図星だった。だから、なにも言い返せなかった。背負ったリュックの肩紐を、両手でぎゅっと握りしめる。病院を退院して以降、僕は毎日体を動かしていた。ジムに行ってトレーニングを再開させたい気持ちを胸に、何度もジムの前を歩く。中には入れなかった。勇気がなかった。以前までは当たり前のように通っていたジムなのに、なにもかもを捨てて逃げだそうとした自分が受け入れられるか不安になって、顔を出すことが出来ないでいたのだ。 「オレの相談に乗ってくれませんか」
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