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僕の心を渦巻く気持ちのなにもかもを無視して、工藤はそう言った。
「オレ、今度の試合でヘルニス・ジョーンと闘うことになりました。でも、初めての外国人の相手で、どう攻略したらいいかわからなくて……。唱飛さんはアイツに勝ってますよね。どうやって対策したんすか? よければ教えてくれませんか?」
いまの僕に教えられることはないと、首を横に振ろうと思った。だけど、肩紐を握りしめているリュックの中に、工藤が求めている答えが入っている。いまの僕にはどうしようもないことは、過去の僕が記録に残しているじゃないか。
「このノートの中に、ジョーンと闘ったときに僕が考えた対策が全部書いてある。時間も経ってるし、ジョーンの癖も変わってるかもしれないから役に立つかどうかわからないけど、もしよかったら貸してあげる」
リュックから取り出した備忘録のノートを差し出すと、工藤はそれを受け取り、ぺらぺらとページを捲り、「すげえ! ありがとうございます! マジ、助かるっす!」と大切に自分のリュックにしまい込んで、深いお辞儀をしたのだった。
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