きみに繋げる物語

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 気がつけば病院の白天井を眺めていた。大型トラックが僕に向かって突っ込んできて、体が激しく宙を舞ったところまでは記憶にある。ぷっつりと途切れた意識が目覚めたのは、腕に点滴が繋がれた病院のベッド上だった。  ロードワーク中に横断歩道を渡っていると、信号無視をして交差点に突っ込んできた大型トラックにはね飛ばされたのだ。 体の中が痛い。包帯がぐるぐる巻きになった全身を見て、自分の怪我の具合は相当に悪かったのだと推測する。 もろに体をぶつけたから、全身の至るところの骨が折れているらしい。折れた骨が内臓に突き刺さり、一時は生死の境をさ迷ったんですよと、僕の看病をしてくれた看護師に言われた。息を吹き返したのは、運が良かったのか、あるいは普段から体を鍛えていたからなのか。理由は誰にも分からなかった。  ただひとつだけ分かっていたことがある。それは、体が回復したとしても、僕はもう事故以前のようには動けないであろうこと。誰かを守ってトラックに轢かれたのなら箔がついていたかもしれないが、ただ横断歩道を渡っていたときに事故に遭っただけのこと。あらゆる偶然が積み重なり引き起こされた悲劇は、僕の人生を一変させる出来事となった。  プロボクサー、唱飛が事故に遭って意識不明となったというニュースは、僕の知らないところで瞬く間に拡散されていた。それは少なからず業界や、僕を応援してくれていた人々に衝撃を与える情報となってしまった。
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