てんし、てんし。

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 ***  私は、この中学校の文芸部に所属しています。  将来、小説家になることが夢でした。私の伯父さんが小説家をやっていて、ホラー小説とかSF小説とかを書いている人だったりします。桜坂杏里(さくらざかあんり)という人をご存知でしょうか?もちろん、それが本名ではありませんが、私のお父さんのお兄さんなのです。お父さんいわく、子供の頃からとっても変わり者だったとか。  そんな伯父さんは、私達姪っ子にもとても優しくしてくれました。そして、伯父さんの影響で、私もちょっと怖いものとか、不思議な話が大好きになったのでした。  例えるならそう、学校の怪談や都市伝説とかクトゥルフ神話とか、SCPみたいな話まで様々です。世の中には、ああいう“人間の理解を超えた恐ろしいモノ”がたくさんあってもおかしくない、だから想像力の翼を羽ばたかせるのが面白いのだと言っていました。  私もいつか伯父さんのように、不思議で怖い話をたくさん研究して書いてみたい。だから、ホラーやSFの公募を中心に、挑戦してみようと思っていました。残念ながら中学二年生の女の子が書いた小説が早々通るはずもなく、まだ一次選考も通過できたことはありませんでしたが。  そんな私の日課は、朝早く文芸部の部室に来て、一人で読書をすることでした。  文芸部の部室の鍵は私が持っていますから、早い時間でも開けることができます。教室の鍵はあんまり早い時間だと開いていないので、ゆっくりと本を読むには文芸部の部室が一番いいのです。私のクラスの教室から近い場所にあったというのも大きいと言えます。  私達の文芸部は、年に一度部誌を作っています。  みんなで短編小説を書いて、文化祭で売るんです。私達は中学生ですけど、文化祭はちょっとしたイベントをするくらいのことは許されていました。部誌も大して売れるわけではありませんが、それでも自分達のお話がみんなに読んで貰えるとなると感無量です。なので、新人賞の原稿を書くことと、文化祭で出す部誌の短編小説を書くこと、そのためのインプットとして読書をすることが主な活動内容でした。 「あ、そうだ」  たまには、過去の先輩たちが発行した部誌でも読んでみようかな、とその時思い立ったのです。  バックナンバーは、全部部室の棚に置いてありました。小さな冊子のような本ですし、載っているのは短編小説ばかりですから読むには時間もかかりません。  水色の部誌の背表紙を眺めながら、どれを読もうかな、と思っていた時でした。その間に、一冊だけ白い背表紙のものが混じっていたんです。 ――あれ?こんな本、あったっけ?
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