てんし、てんし。

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 サイズは、文芸部の部誌と同じ。B6とか、言ってた気がします。  私はその、真っ白な薄い本を手に取りました。ああ、今その本は私の手元にあります。私は今文芸部の部室にいるので、テーブルの上にその本が載っています。  表紙も背表紙も、全部真っ白な本。その本には、一つだけ、お話が載っていました。天使のお話です。それもとても短いもの。皆さんに研究してもらいたいので以下にそのまま転載しようと思います。 『天使ワラエキは、とても残念に思っていました。  ワラエキはあんなにも頑張って世界を作ったのに、人類はおろかにもワラエキの存在を抹殺しようとしています。  自分達が信仰されることによって、人々に知られることによって、力を増す存在であることに気付いていたからでしょう。  ゆえに、あらゆる歴史書からワラエキの名前を抹殺することによって、皆がワラエキを“知らない”ようにし、そうすることで私の力を削ぐことができると思ったのです。  確かに、愚かで醜くて弱くて情けない人類に、彼が裁きの鉄槌を下すことはあまりにも簡単です。  ワラエキはワラエキの使徒を、いくらでも増やすことができます。  そして使徒となった者に、どのようなことでも命じることができます。人を殺すこともできますし、使徒を見た人間を新たな使徒にすることもできるのです。  その力は、意思やら個人やらをやたらと大切にしたがる人類には、とても脅威に映ったのだと思われます。  ですが、それは全て無駄なことです。  ワラエキは確かに少しだけ弱体化しましたが、その力を完全に封じることなど、矮小な人間にできるはずもありません。  少し頑張ればこのようにして、ワラエキの存在を誰かに教えて、使徒を増やすことができるのです。  ワラエキは、いい加減、人類たちに自分の存在を思い出してもらうべきだと感じています。ですので、行動に移すことにしました。  皆さんも、もうすぐワラエキに会えると思います。この世で最も美しく、強く、誰も逆らうことができない天使です。  その瞬間を、拍手を持って迎えてください。ワラエキは、自分を受け入れる者を歓迎してくれることでしょう』  ワラエキ、という天使様が世界を侵略しようとするお話、であるようでした。  きっと文芸部の誰かが考えたお話なんだろう、と思ったんです。そもそもワラエキなんて天使様の名前、見たことも聞いたこともありません。どこかの宗教にもなかったと思うんです。だから誰かが、“俺が考えた最強の天使!”のお話を考えて、試しに冊子にでもしてみたんだなと思いました。 ――これ、ネタにするといいかも。
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