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『手洗い場とかに、洗剤ねえの?なかったら家庭科室だな、持ってこい』
「……うん」
実は、三階のトイレの前の水飲み場に、一個洗剤が置いてあることを知っていたのだ。多分本来は正面の家庭科室にあったものだろう。家庭科室の中だったら、鍵がかかっているし入れなかったところである。僕がいる図工準備室は同じ三階。すぐに、僕は洗剤を持って戻ってきたのだった。
やっぱりというべきか、洗剤でこすったら下の絵具も若干溶けてしまうようだった。灰色の背景が少し薄くなってしまった気がして、なんだか泣きたくなってしまう。それでも、ウンコのラキガキまみれよりはマシだと、僕は半泣き状態で雑巾に洗剤をつけてこすり続けたのだった。
そのあとは、天使様がいろいろ注文をつけてくるので、全体を水をつけた雑巾で拭いたり、裏側の埃を取ったりと全体的な掃除をしたのである。ウンコのラキガキは大分うすくなったし、埃まみれの裏側も少しは綺麗になった。天使様はそれを見て、ヨシ、と頷いたのだった。
『少しは根性のあるガキで見直したぜ』
「じゃ、じゃあ……呪わないでくれる?」
僕は縋るように彼を見つめて言う。すると天使様はにやにや笑いながら「そいつはどうかなぁ?」と言った。
『それでも、天使である俺様を穢したつーのは、まあでかい罪だよなあ?』
「え、え?」
『まだまだ怒りはあるなあ?みんな天罰でいいかなあとまだ思ってるかなあ?』
「そ、そんなあ……!」
『おう、だからお前、罪を償え』
後から思えば、明らかに面白がっている反応だが。その時の僕は、そんなことも気づけないほどテンパっていたのだった。だから。
『お前が可能な限り毎日俺様に会いに来い。でもって、俺様の話し相手になれ。俺様の名前はリーツ。お前は?』
「す、す、朱堂快晴、です……」
『そうかそうか、カイセイ。呪われたくないんだろ?なら、約束な?』
頷く以外に、果たして選択肢などあっただろうか。
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