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それから償い、は何年も続くことになる。
僕はものすごく忙しい時と長期休みの時(流石に夏休みや冬休みまで来いとはリーツも言わなかった)以外、なるべく毎日放課後に図工準備室へ足を運んだのだった。
最初はおっかなびっくりだった僕も、毎日のように話していると段々怖さが薄れてくるものである。何より、リーツは呪うぞ、なんて言うものの言葉以上のことは何もしてこなかった。同時に、結構性格は“アニキ系”で、僕の悩みの相談も聞いてくれたというのもある。
『そりゃお前、女心がわかってねえよ』
二年生のある日、彼は呆れたように言った。
『カナちゃんとやらは、可愛いって言ってもらいたかったんだろうぜ、その浴衣。なら、ストレートに可愛くねえ、似合わねえなんて言ったら怒られるに決まってんだろうが』
「でも、似合ってないって思ったし……いつものワンピースの方がいいのに」
『ばーか、そういう時は“その浴衣もいいけど、いつものワンピースが一番似合ってて可愛いよ”ってポジティブな方向に持っていくんだっつーの。それなら何も貶してないし、向こうだってそんなに嫌な気分にならないだろうがよ。世の中には、思っていても言っていいことと言わない方が無難なことがあるんだっつーの。お前も直に大人になるんだから学んでおけ』
「ええ、難しいよ……」
また、三年生の夏休みが終わった後はこんなことも教えてくれた。
『だから読書感想文はさっさと終わらせとけつっただろ。ああいうのはな、深く考えなくていいんだよ。あらすじで半分くらい埋めて、それに対して自分の考察とかてきとーに書いておけば終わるんだって』
「だって本、つまんなかったんだもん」
『なら、何がつまんないと思ったかを丁寧に考察して書け。いか?つまんないって思うのは自由だ。でも、ただつまんないって書いただけの作文を先生達も通すわけにはいかねえんだよ。お前も嘘をつきたくねえなら、それなりの道理を通しな』
「うーん、そっかあ……」
四年生の秋くらいからは、僕がハマったカードゲームについて話すようになった。絵の中から出られないリーツと対戦することはできないけれど、それでも話題としては充分だったからだ。
『待て待て、じゃあ、攻撃宣言する前に、相手のトラップを全部排除しておくのが筋ってもんじゃねえか?なんでそうしねえんだよ?』
「それは無理だって。魔法罠カードを一掃できるようなカードが、いいタイミングで手元に来るとは限らないんだから。それに、相手が手札に速攻魔法持ってたり、墓地の罠を発動してきたら意味ないんだよ」
『あー、じゃあ相手の墓地の把握も忘れるな、と。でも手札は見えないから結局どうしようもないか』
「そういうこと。ラッシュの方だったら、現環境だと罠だけ排除すればカウンターは食らわないけど、OCGの方は無理なんだよね。敵の反撃手段がてんこもりだからさー」
五年生。僕も、最近漫画クラブに入って絵を描くようになった、という話をした。まあ、僕は油絵なんて高度なものは描けないし、あくまで“鉛筆や色鉛筆で描いた軽いイラスト”が精々だったけれど。
『いいんじゃえねの、カイセイ。キャラの顔がイキイキしてる』
「ほんと?もうちょっとこう、翼をかっこよく描きたいんだけど、難しくってさあ。あと、手が普通にムズい。角度おかしくなる……」
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