第1章 七の女王

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 翌日。重い足取りで学校へ向かった。初日から、変なことに巻き込まれた。母親がいなくてよかった。そう思ったものの、噂とは巡り巡っていくものだ。  帰宅してみると、なぜか学校の違う姉、(かなで)から、「あんた、七の女王になったんだって?」と揶揄われた。 「女子高生の情報網、なめちゃいかんよ。今時は、どんな些細な情報でも漏洩するものなんだから」  奏はニヤニヤと意地悪な笑みを見せている。着物から解放されて、ほっとした表情の母親は「七の女王ってなに?」と首を傾げた。 「梅沢高校に昔から伝わるジンクスよ」  奏は七音よりも詳しく、七の女王についての説明をした。 「へえ、そんなことあるの。(かず)ちゃん。ラッキーじゃないの」 「ど、ど、こが?」 「だって。先輩たちや、同級生とも仲良くできるんじゃない? そういえば、前に学校に問い合わせたとき、学力だけじゃなくて、部活動も盛んだって言っていたわ。文武両道ってね。(かず)ちゃんも、なにかの部活に入らなくちゃいけないでしょう? そういうときに有利になるんじゃない」 (部活動……)  七音の脳裏には、教室に押しかけてきた先輩たちの姿が浮かぶ。勉強ばかりの人生だったのだ。勧誘をされたところで、どの部活もまともに務まるとは思えなかった。 「七の女王なんてネーミング。素敵よね。さすが梅沢」 「ど、どういう、い、意味?」 「あら? 知らないの。梅沢高校っていえば……むふふじゃない」 「む、む、むふ、ふ?」  奏はますます意地悪そうに笑う。 「昔から。梅沢高校には、学校内交際が、まかり通っているのじゃ。七音も素敵な彼氏見つけてきなよね」  それに吹き出したのは父親だ。彼は読んでいた専門誌にコーヒーを吹きかけたのだ。 「あらやだ。お父さん」と母親は笑うが、父親は七音の元に駆け出してきた。 「まだ、嫁入り前だぞ。お付き合いだなんて、父さんは許さないからな」 「き、決まったわけ、じゃ、ないじゃない。ぼ、僕。別に……」 (そう。好きな人なんて……好きな人、?) 「いいか。そういう相手ができた場合、一番に家に連れてきなさい。健全なるお付き合いが必要だ。影でこそこそと付き合って、悪い結果になったのでは元も子もないのだからな」 「そっち? なに。いいの? お父さんは。七音のお相手が男子だったとしても」  母親は呆れた表情を見せるが、父親は銀縁の眼鏡をずり上げると、「関係ない」といった。  七音の父親はいろいろなことに寛容だ。精神科医ということが影響しているのだろうか。 「お前がいいと思った相手だ。父さんは全力で応援する覚悟はできている」 「だ、だから。いないんだ、って」  なんだか大変なことになってしまった、と思った七音は自室に戻ることにする。今日は本当に疲れる一日だった。階段を上る途中で、ふと足を止める。七音の頭の中に浮かぶ人影は、獅子王だった。 (強烈すぎる。あのキャラ。ああ、ダメだ。あの人を探そうって思っているのに。獅子王先輩の顔しか思い出せなくなってしまった!)  七音は首を横に振った。
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