気になるひと

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「何にやにやしてんの」  不意に息子に声をかけられて、私はスマホの画面を隠すように胸に抱えた。 「やだ。変な言い方しないでよ」 「もうケリ着いたんだし、誰と付き合おうが自由じゃん」 「そんなんじゃないってば」  いつもそばにいて励ましてくれる、友達や家族。 私にとってカイさんはそんな存在だった。カイさんが公表してるのは男性であることだけだ。本名はともかく、年齢や住んでいる場所も明らかにしていない。交わしたコメントの数に比べたら、その頑なさは寂しく思うところもあったけど、ネットでは個人情報を晒さない主義なのかもしれない。 「俺より先に恋人ができるなんてね」 「だから、違うんだって」  物わかりが良すぎる息子は笑ってお風呂に行った。 こんなふうに何気ない会話ができるようになってつくづく思う。あの頃の自分の家庭が、どれだけ居心地の悪いものだったのかを。私を束縛することに異常に執着する夫から、弁護士を立ててようやく自由になった。  今は恋愛はいいかな… 夫だって初めからそんな人だったわけじゃない。私にも何か落ち度があったのかもしれない。そう考えると、自分に自信が持てずにいた。 カイさんの文章の優しさに触れ、会って話をしてみたい衝動に駆られることもあるが、異性であることが私にブレーキをかけていた。恋愛結婚に一度破れた私はまだ前に進めない。時を経て失ってしまう可能性があるなら今のままでいい。  もう若くないんだし だいたい、彼にだって恋人や家族がいてもおかしくないのだ。軽率な行動は取れなかった。
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