クラス会

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名札を胸に着けてそれぞれグラスを持つと、乾杯の音頭が取られた。しばらくあちこちで昔を懐かしむ流れになり、私たちも部活やクラブで繋がっていた人たちと、戻った時間を楽しんだ。 飲み物のおかわりを取りに行くと、あとから来た広瀬くんが私に気がついた。 「あ、鴫原(しぎはら)」 「久しぶり。元気そうだね」  人懐っこい笑顔に私も笑みを返した。 「そうでもないよ。仕事はまあまあだけど、去年離婚したし」 「えっ」  優里と思わず声を上げた。 「やっぱり俺なんて、隅っこで大人しくしてるのが似合いだよ」 「頑張って手にしたものもあるでしょ。凄いよ」 「メッキが剥げたんだ。つまんない男って言われちゃった」  広瀬くんは昔と同じ眼差しで苦笑いした。自分の力だけではどうにもならないこともある。人生を添い遂げたいと思った相手に、嫌悪や失望を抱くのはやるせない。元伴侶と同じ状態の私は複雑な気分だった。 「ここにもバツがいるわよ」 「もうっ。何でバラすのよ」  私が慌てて優里の袖を引くと、広瀬くんがくしゃっと笑った。 「何だ、同士か。今日は気晴らしも兼ねて来たんだ。全部ぶちまけてさ」 「うん。飲んで飲んでー。ほら、シギも」  少し酔いが回ったのか優里が笑顔ではしゃぐ。そんな二人に呆れた私もつられて笑ってしまった。 「そう言えば、シギと広瀬くんって図書委員だったよね」 「ああ。暇で本が読めるかと思ったのに、何か違ったな」 「わかる。地味な仕事だよね」  返却を催促する手紙、新刊の紹介文やポップを作成したり、本の修理をしたり。 作業しながらお互いの好きな本や他愛もない話を分け合うように過ごした、恋とも友情ともつかないささやかな時間だった。言われて初めて気づく、ひっそりと、でも優しく見守ってくれる広瀬くんのように、私の心の中に眠っている。 「懐かしいな。最近、何か読んだ?」 「ううん。全然」  ふと彼の胸元の名札に目がいった。 『広瀬 海斗(かいと)』 とくん、と鼓動が鳴る。  カイ…ト  まさか 私は自分にツッコミを入れる。 久しぶりの再会と気になる人との符合。 出来すぎたベタな恋愛なんて、それこそ物語の中でしかありえない。それでも相手が広瀬くんだったら、悪い話じゃないのかも。酔いも手伝って、私はそんなことを頭の片隅でぼんやり思った。
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