文学フリマ

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 当日は動きやすいように服装はジーンズにしたが、メイクにはいつもより気を配った。 会場に着くと既にすごい人出だった。外は木枯らしで冷えているのに、熱気で汗をかいてしまいそうなほどだ。 「波音(はのん)ちゃん。こっちこっち」  梅さんが目ざとく私を見つけてくれる。 「よろしくお願いします」 「波音ちゃんのフォロワーさんも何人か来てたよ」 「わあ。ありがとうございます」  本当は手渡せたら一番よかったけど、やっぱり小さな子どもがいると夕方は自由が利かないようだ。あとでメッセージを送っておこう。 平積みの本を手に取ってためつすがめつ眺めていると、嬉しさがじわじわと込み上げてくる。電子書籍も当たり前になって久しいけど、私は紙媒体の質感がとても好きだ。ページをめくる時の指先の感触は、物語への期待を増幅させてくれる。 仲間がご祝儀を兼ねて買ってくれるのもありがたかったが、振りのお客さんに手に取って貰えたらそれも嬉しい。 色んな人がいた。目的以外のブースには立ち寄らない人、端から順番にじっくり眺めていく人。作家さんと親しげに話す人もいれば、本に夢中になってる人もいる。  カイさんはどんな人だろう  会ったらすぐにわかるかな  歳は近いのかな  私を見て オバサンだなって幻滅しないかな 一人でそわそわしながら梅さんの話に相槌を打ち、お客さんと言葉を交わした。彼らが自分の作品を迎え入れていくのがとても嬉しかった。
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