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星屑の海で
最後の一文を書き上げて、私は息をついた。
書くと言っても、私の執筆はスマホで打ち込むスタイルだ。もう日付が変わっている。伸びをすると、強ばっていた筋肉がゆっくりとほぐれていく。推敲作業は何度繰り返してもキリがない。
小説投稿サイト『星屑』では、月に一度開催されるコンテストがあって、投稿者の間でも人気があった。毎回お題が与えられ、それを活かした作品を書いて応募するのが、私の最近の楽しみだった。私はもう一度初めから自分の書いたものを読み直した。
「よし」
表紙やあらすじを書いた作品ページもチェックして『公開』をタップした。先輩の梅さんがすぐに本棚に追加してくれたのを確認して、私はスマホを机に置いた。
今では読んでくれる人も増えて、フォロワーさんとの交流も楽しんでいる。実は駆け出しの作家だったりする人も中にはいるが、私の周りは仕事や子育てなど、等身大のリアルな日常に追われる人たちばかりだ。
さらに言えば、若い人が多いかと躊躇していた自分にとって、同年代のアラフォーが多いのも驚きだったし、まだ一緒に夢を追う仲間がいることが嬉しくもあった。
三年前に離婚して正社員の傍ら始めたのが、高校時代から夢見ていた小説を書くことだった。
読書以外に取り立てて趣味のなかった私に、それは自己表現のひとつでもあったのだと思う。息の詰まる毎日から解放されて、ふと自分をもっと出してみたくなった。何から手をつけていいのかわからなかった時代と比べて、今は誰でも気軽に自分の言葉を紡ぐことが出来る。
そして、書いたからには誰かに読んでもらいたい。高校生の息子は少年漫画に夢中で、青年たちの苦悩やヒロインの恋の行方になんか興味はなさそうだ。と言うより、私の方が恥ずかしくて見せる勇気がなかったのもある。リアルを共に過ごしている人に、脳内で描いた妄想の景色を見られるのは、あまり気が進まなかった。
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