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スタンプラリー仲間?
角立岬で出会った週末からきっちり1週間後、「22.槇村記念館」で展示物のアンモナイトを眺めていたら、YZF-R1Mの彼に会った。
「ここに併設されているカフェ、行きました? “古代ランチ”っていうのが名物らしくて」
知っている。1日20食限定だから、間に合うように早起きして来たのだ。
「良かったら一緒に……」
「良いわよ」
この槇村記念館は、槇村丈一郎という地質学者が個人蒐集した辰深地方の化石や鉱物を展示している。興味のない人には退屈かも知れないけれど、珍しい模様の小石や貝殻を集めるのが好きな私には心ときめく場所だ。なのに恭也と来たときは、急かされてほとんど鑑賞出来なかった。今回はじっくり堪能出来たから、今の私は機嫌がいいの。
「槇村教授のコレクションって、うちの大学にもあるんですよ」
「大学?」
「俺、成辰大学の2年生なんです」
テーブルを挟んで古代ランチを食べていたら、会話に爆弾が投げ込まれた。
若いとは思っていたけれど、なんと彼は大学生だった。しかも20歳! 私より6つも年下だ。
「この冬から、就活が本格的に始まるんで、スタンプラリーを制覇するチャンスは今年しかないんですよ!」
三葉虫に見立てたエビフライを齧りながら、ペラペラと個人情報を漏らす。大丈夫かしら、この子。警戒心の低さに、私は姉のような気分で心配になる。
「俺、槇田翔吾って言います。マキの字は、槇村教授と同じで――」
こちらの胸中を察することもなく、彼は名乗ってしまった。仕方ない。私も名前だけは明かしておこうか。
「安東さーん!」
更に翌週末、「5.螭竜洞」という鍾乳洞の入口横でスタンプを押し終えた途端、名前を呼ばれた。
いつものライダージャケットを着た槇田くんが、駐車場から駆けてくる。
「もう、見ちゃいましたか?」
「え?」
「この中……俺、暗くて狭いところ苦手なんですけど、一緒に入っていただけませんか?」
苦手なら、無理に入らなくてもいいのに。
喉まで出かかったけれど、彼が期待に満ちた眼差しで見下ろしてくるものだから。
「仕方ないわねぇ。おねーさんの腕、掴んでなさいっ」
「はいっ」
なんて見栄を切って、鍾乳洞観光なんかしちゃったのだ。私だって、こういうところはちょっと不気味で怖いのに。
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