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コンプリート!
槇田くんが消えた。アンモナイトのネックレスとスタンプ帳を残して、帰ってしまった。
全く、どういうつもりなの!
しばらくの間憤慨していたけれど……私は手がかりを求めて、彼のスタンプ帳を開いた。驚いたことに、押されたスタンプの数は33。私に追いついていた。
『あの人に会えた。昨年は男と一緒にいたけど、今日は1人だった。メタリックブルーのR25で走る姿が素敵だ』
「えっ」
『R25があった! あの人は髪を切っていた。セミロングもよく似合う。話したいけれど、切っ掛けがない』
『今日は会えなかった。きっとあの人も辰深を走っているのに。会いたい』
『特産品をもらったら、シチューに入れようか。カレーでもいい。あの人と一緒に食べたいと思うのは、叶わない夢だろうか』
『話した! スタンプの紙をくれた! 一緒に角立ソフトを食べた! なんて素晴らしい日なんだろう!』
『アンモナイトを嬉しそうに見ていた瞳が綺麗。やっぱりあの人が大好きだ』
なにこれ。
スタンプ帳の「想い出メモ」欄には、どのページからも『あの人』への熱い想いが迸ってくる。
「槇田くん……」
胸が震えた。気づいたら、スタンプ帳を抱きしめて、涙が溢れていた。
彼は、角立岬で出会うずっと前から、私のことを見ていたのだ。
会いたい――ちゃんと話さなくちゃ。
9月15日。晴天。潮風が少し涼しい。
愛車と共に、辰栄港から宝珠島行きのフェリーに乗った。背中のボディバッグの中には、スタンプ帳が2冊。首元で、アンモナイトのネックレスが揺れている。
彼は、必ず来るだろう。
顔を見たら、なんて言ってやろうかしら。そうね、こんなのはどう?
「シチューとカレー、どっちを作って欲しい?」
【了】
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