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序章─翼のない天使
── おめでとう新入生の君たち!
けどやめとけこんなクソ大学!
今ならまだ間に合う!人生無駄にするな!ここだけはやめとけ!!
なんだよ!!じじい!どこ触ってんだよ、このすけべ!!
入学式の日、
関係者と思しき大人数人に囲まれ揉み合いになっても拡声器は話すことなく
大音量でまくし立てるその声はいつまでも晴れやかで穏やかであるはずの入学式の学内に響いていた
今では樫脇有希の入学式の記憶の殆どを占める彼女。
それがサリコと呼ばれる学生活動家でグロい噂の絶えない
学内に留まらず南関東一帯では知る人ぞ知る女闘争員
砂原璃子であることを後に有希は知った
2年後、そんな彼女との出会いがあんな形になるなんて思ってもみなかった
それは学生運動の波も引き始めた1972年秋の事、あれほど日常的に飛び交っていた拡声器による絶叫音も,通りに溢れかえるほどに乱立していた立て看の景色もそこにはもうなかった。
それはある意味表面上は、大学としてのあるべき姿を彼女たちは取り戻しているようにも思えた。
ヘルメット姿に拡声器にゲバ棒。毎日ビラを学内に撒き散らし授業までも占拠。
そんな輩を学内の学生は苦々しく見ていたのは確かで彼彼女等を排除する世の中の動きは私たちにとっては歓迎するべきもののように思われた。
そんな状況のなか、鹿児島から東京に出てきてから二年、雲ひとつない秋晴れの富士の稜線までもがくっきりと見渡せる秋晴れのある日に、
有希はこの世の天使と出会ったのだ。
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