0人が本棚に入れています
本棚に追加
私の顔色を伺いながら、私の心を気遣いながら、笑い顔をたやさない、母ちゃん。
繭はわかってるよ、私の見えないところで泣いてるのは。だっていつも目が真っ赤だもん。
見たくなかった母の姿。けれどそうさせたのは、都落人、渡良瀬繭。
それを今、私は思い知らされている。
私は東京にすべてを持っていかれた。お金も、夢も、誇りも、友達や母に向ける笑顔まで何もかも失った。
あの時は自分にはもう何もないように思えた。でも、私はここに戻ってきて、自分に残っているものに気が付きはじめている。
それは今は言えないけど確かに私のなかにある。そう思うのよ、さやか。
だから、私はここ妻有でもう一度自分と向き合ってみる、母とも向き合ってみる。地べたとも向き合って土だらけの大根も一本一本引っこ抜いてみる。
神様にも毎朝手を合わすようにもなった。
勝手な願いかもしれない。都合のいい女、困った時だけの神頼みかも知れない
けれど生まれて初めて毎日お百度踏んで、足の裏は霜焼けとあかぎれでコチコチのゴチゴチになってる。
私はもう私じゃないくらい地べた這い回っての懺悔の毎日だ。
どうか許されるならば神様、東京でのすべての私を許しください
繭はきっときっと必ず生まれ変わって見せますから、ってね…。
渡良瀬まゆ
最初のコメントを投稿しよう!