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結論から言うと、わたしが購入する予定だった本の在庫はなかった。
銀の瞳の少年――塚原しろがねと名乗った彼は自分が取り寄せを待とうかと申し出てくれたが、先に本を手に取ったのはそちらであるのだしとわたしが恐縮すると、困ったように笑った。
「じゃあ今度、なんかお礼させてよ。大西さん、東高のひとでしょう」
「そうだけど……あ、塚原くんって西北か」
西北学園はわたしの通う東高からほど近い場所にある進学校だった。彼の着るブレザーは通学区域でよく見かける見慣れたものであり、おそらく彼も、わたしのセーラー服を見て高校が近いことにあたりをつけたのだろう。
「そう。だからガッコの帰りにどっか寄れるかなって」
塚原くんは当然のようにスマートフォンをポケットから出し、メッセージアプリのQRコードを表示させてこちらへ差し出した。わたしは陰キャ特有のもたつきを見せながらそれをカメラで読み込み、なんとか登録を済ませる。
「塚原しろがね……くん」
「うん?」
連絡先一覧に表示されたユーザー名の響きが、なんとなく不思議なものに感じて口に出してしまった。きょとんとスマホから顔を上げた彼に、焦って言い訳をする。
「いや、珍しい名前だと思って」
「キラキラネームでしょう」
「違、いい響きだし、似合うよ」
「そう?」
ずいぶん屈託なく笑う少年だな、と思った。嬉しそうとしか形容できない笑顔でそのまんま「うれしっ」と言った彼は、すぐ連絡するから! と言い残して店を出ていった。
わたしはぽかんと立ち尽くしたまま、運命の相手、という言葉が頭の中をぐるぐる駆け巡るのを感じていた。なので店員さんの「そちらもお会計されますか?」という言葉にもなかなか気付けず、三度目でようやく気づいて「はいっ!」と大声を上げたせいで、あの銀色の本を買うことになってしまった。わりと値段が張った。
帰り道、こっそり開いた銀色の本にはこう書いてあった。
<こうして梢は、塚原しろがねと運命の出会いを果たしたのだった>
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