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2.塚原くんとわたし
塚原くんからは本当にすぐに連絡があった。
候補日を三つも挙げてくれた彼は変な顔をした犬が『よろしくおねがいします』と正座しているスタンプ(わたしも持っているやつだ)をぽこぽこ二つも押して、本屋の近くにある喫茶店の地図を思い出したように添えてきた。
わたしはその勢いに笑ってしまって、一番近い日程を指定したのだった。
「俺ここのさ、なんか生クリームのやつが好きで」
「ケーキだいたい生クリームのやつじゃない?」
「いや、こう、生クリーム生クリームしてるっていうか。白っぽいケーキなんだよな」
「バニラクリームシフォン?」
「それかも、それだわ。それください」
「じゃあわたし、季節のフルーツのタルト」
「紅茶つける?」
「うん」
ケーキをついばみながらの会話は想像よりずっと弾んだ。
塚原くんはわたしと同じく高校二年生で、ゆるくてちょっと軽薄そうな見た目とは裏腹に読書家で、わたしと同じ作家が好き。志望大学はなんと同じ私大で、いまは親元を離れて一人暮らしをしているらしかった。
「高校生で一人暮らし、偉いね」
「どうもどうも。気楽なもんよ」
「休みの日とか永遠に寝ちゃうタイプ?」
「そう。起こす人いないから、全然二時とかに起きる。昼の」
「夜ふかししてるせいでしょ、本で」
「わかります?」
たまに敬語混じりに話すのがクセで、部活には所属していない。ケーキはクリームがたくさん乗ってるのかフルーツがたくさん乗ってるのが好き。紅茶はストレートで飲むけれど、コーヒーには角砂糖を四つ入れる。
「雨降ってきたねえ」
「早めに帰る? 俺折りたたみあるけど」
「……もうちょっといようかな」
「うん」
店内のジャズに紛れる雨音を聞き分けようとするかのように、塚原くんは目を閉じる。わたしも、それにならう。
やがて、ふ、と笑うような吐息が聞こえた気がして目を開けると、塚原くんの銀色の瞳が、うつむきがちにこちらを見ていた。
この日、はっきりしたことが一つあった。
わたしたちは、恐ろしく気が合う。
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