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季節が巡って、高校3年生の冬。あの日本屋で塚原くんと出会ってから、もう一年以上が経過していた。
わたしたちは相変わらず――というかいよいよ親しく、ビデオ通話を繋ぎながら深夜に勉強したり、予備校の帰りにこっそりコンビニで合流してお喋りを楽しんだりしていた。
「そういえば受かったとしてさ、どう通う?」
その夜も、わたしたちは予備校からほど近いコンビニの駐車場の隅で肉まんをかじっていた。わたしと塚原くんは模試で第一志望にA判定を貰っていて、多分、少しの余裕から出た言葉だった。塚原くんはホイコーローまん(彼は新商品で冒険するタイプだ)を一口呑み込んで、うーんと唸る。
「引っ越さなきゃだよなあ。こっから通学はきついわ」
「だよね。わたしも部屋借りると思う」
わたしたちの第一志望の大学は、いま住んでいる場所から県ふたつをまたいだ先にあった。わたしはもし受かったら一人暮らしをすることを両親と相談していて、それも大きな受験モチベーションのひとつになっている。
「あ、じゃあさ! ルームシェアしましょうよ」
肉まんもう一つ食べようよ、くらい軽くそんな言葉が塚原くんの口から出てきて、わたしは唖然として彼の顔を見る。
彼はというと自分の言ったことの意味を今更咀嚼したのか、顔色を赤くしたり青くしたりしながら「いやその違くて」「いや違くないんだけど」などともごもご言っている。
「……わたしたちって付き合ってたんだっけ」
「や、その」
わたしの言葉に可哀想なくらい肩をびくつかせた塚原くんは、「だから」と呟いたあと、意を決したようにこちらを見て、言った。
「だめかな。俺、大西さんのためなら何でもできるような気がするんだけど」
真剣な表情だった。目のふち、色素の薄い肌がうっすら赤く染まっていて、ああ緊張しているんだな、と思った。
正直、きょう告白されることは銀色の本で読んで知っていた。だからわたしはすっかり受け入れるつもりで、それでも胸を高鳴らせながら予備校の授業が終わるのを待っていたのだけど。
実際に彼の言葉を聞くと、心臓のいちばん奥をぎゅうと掴んで締め付けるような、それでいて美しい小鳥を壊さないようにそっと両手で包んだ時のぬくもりのような、優しくて切ない心地がするのだった。
「わたしも、多分そうだよ」
塚原くんはほっとしたように笑って、わたしはちょっと泣いた。
その後、たくさん話をした。塚原くんは実のところ、本屋でよく見かけるわたしのことをずっと気にしてくれていて、あの日知り合えて本当に嬉しかったのだという。
だからあんなに前のめりだったのか、と納得はしたけれど。わたしも塚原くんのことが大好きなのに、出会う前の彼が記憶にないのはちょっと悔しいな、と思ったのだった。
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