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「俺への愛はムカデに勝てないのかっ?」
「充悟さんが閉めろと言ったんですよ?」
と扉越しに晴乃が言ってくる。
「鍵を閉めろとは言ってない!
お前、ほんとうに俺に愛があるのかっ!?
俺だけがお前と一生ともにいるっ! とか、
お前のいない生活は考えられないっ! とか思ってるだけなんじゃないのかっ!?」
いや、そんな莫迦な……と晴乃が苦笑いをしている気配を感じた。
晴乃の愛らしい声が扉越しに聞こえてくる。
「そんなのだったら、結婚してません。
どれだけ強制されてもしてません」
「そういう意志の強さはあるよな、お前……。
……ところで、そろそろ鍵を開けろ」
ムカデは踏み潰した、と言うと、ようやく、ガチャンと鍵が開いた。
ふわっと暖かい家の空気が流れてきて、晴乃のやさしい香りがしたが。
ほんとうに、ここに愛はあるのか……?
と充悟は、まだ考えていた。
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