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プロローグ
ラジオからはクリスマスソングが流れていた。
「おい、坊主。今夜はチキンだぞ。おまえ、チキンが好物だろう?」
インディアンのお面を被った男は、怯えるぼくの頭を撫でた。右手首から肘まで火傷の痕が見えた。
お面で顔はわからないが、その火傷の痕がぼくを攫った男の特徴だった。
呑気なクリスマスソングが充満している部屋の中で、ぼくは身を固くして、ただ助かりたい一心だった。
「お父さん、助けて...」
ぼくは必死になって祈った。
お父さんはいつだって、ぼくのヒーローだ。お金持ちの社長であるお父さんは力があって、人気もある。それにお母さんも優しい。ぼくの好物をたくさん作ってくれる。
だから、ぼくはこうやって我慢できるんだ。お面の男の人には恋人がいるらしい。時たま、台所に立ってぼくと男のために料理を作ってくれる。
不思議なんだけど、出される料理の味がお母さんのに似ているんだ。だからか、ぼくは料理を口にする度にお母さんを思い出して涙を流す。
「坊主、あともう少しの辛抱だからな」
お面の男は気持ち悪いほどの優しい声で語りかける。逆にそれがぼくの不安を搔き立てる。
台所からチキンの焼ける香ばしい匂いがしてきた。ぼくはクリスマスの二週間前に突然、学校からの帰り道に車に押し込まれた。車内で目隠しと猿ぐつわをされた。怖かった。あまりの恐怖に失禁しそうになった。
男はインディアンのお面をしていた。ぼくの前では、決してお面を外すことはなかった。悪いことをしたのだから、お面なんて外せないだろう。でも、ぼくがここから抜け出せたら、必ず男の正体を暴いて、鉄槌を下すんだ。
僅かな希望だけがぼくを支えた。
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