プロローグ

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 お父さんはぼくが意外に元気だったことに驚き、いいクリスマスなのか、悪いクリスマスなのかわからないと言った。  お母さんは家でチキンを焼いたから、食べようねと言ってくれた。  それからぼくは知ることになる。  ぼくは身代金目的の誘拐事件の人質で、身代金受け渡し場所にやって来たのは、ホームレスの男だった。  ホームレスの男はインディアンのお面を被った男に金を渡されて、公園の物置小屋の中にある黒革のボストンバッグを取りに行くように頼まれたらしい。  ホームレスはその日暮らしでひもじい思いをしていたので、すぐにその依頼を受け、警察が包囲しているとも知らずに、公園に現れた。そこで御用となった。  ホームレスはおとなしく警察に連行され、インディアンのお面の男について話した。  顔はわからなかったが、身体的特徴として、右手首に火傷の痕があったと供述した。その特徴はぼくの供述とも一致していた。  すぐにインディアンのお面の男が指名手配された。特に警察は右手首の火傷痕を強調した。  お父さんである守谷実資は心当たりの人物がいるか、訊かれたが、心当たりはないと答えた。お母さんである守谷文香も同様だった。  ぼくは毎夜、インディアンのお面の男の夢を見て、満足に眠れなくなった。  それから、チキンも食べられなくなった。  医師の話しによると、、PTSDという病気にかかってしまったらしい。  殺人未遂や誘拐、災害を経験した後、心に大きな傷を受け、それらがフラッシュバックして精神的悪影響を及ぼす症状だ。不眠、食欲減退、最悪な場合、異性への関心も薄れていくらしい。  完治する方法は確立されていない。  ぼくはインディアンのお面に脅かされる日々を送ることになった。
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