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円寿町は非常に小さな町だ。宿泊施設は充実していない。だから車中泊をしたり、他県のホテルから足を伸ばしてくる。
そんな町で、甘粕町長が不審な死を遂げた。
死因は突然の心不全だった。心臓に持病がない町長の突然の死は町に大きな衝撃を与えた。
誰もが町長の死は天罰だと思っていた。
なぜなら、甘粕町長は町のシンボルである教会を取り壊して、その跡地にテーマパークを建設する予定だったからだ。
そこには官民の癒着があった。元官僚出身の甘粕は円寿町の役場に天下り、そこから豊富な資金源と人脈をバックに町長選挙に初立候補して、見事に当選した。
対抗馬である現職の町長は伝統を重んじるタイプで、甘粕とは一線を画していた。改革派対保守派という単純な構図以上に、町長選挙は世代交代の感があった。甘粕は五十代の脂の乗り切った世代であるのに対し、現職の沢渡町長は七十代後半の老境に差し掛かった老人だった。
町もフレッシュな風が吹くことを待ちわびていた。もちろん、甘粕はそれも計算済みだった。
町長選挙は大方の予想通り、新人の甘粕が当選。早速、彼は町の改革に乗り出した。
公約では町のシンボルである教会は残すと約束はしてはいたが、当選してしまえば、それはなかったことにできる。裏切られた町民はほとんど高齢者ばかりなので、暴動も起きることはなく、町は甘粕色に染まりつつあった。
町民は教会だけは守りたい一心で、町役場の前でハンストを断行した。
甘粕は最初は見て見ぬふりをしていたが、体力のない高齢者に役場の前で亡くなられては寝覚めが悪いと思ったのか、彼の息のかかった民間警備会社の部隊が排除に取りかかった。
こうして、甘粕の独裁政治が始まった。
その矢先、甘粕は不幸な死に見舞われた。殺人か事故死か、まだ定かではないが、もし、これが警察案件だったら、円寿町の名前に疵がつく。二十年三か月間守り抜いた無殺人記録が途絶えることになるからだ。
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