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「先生。具合が悪いので保健室に行ってもいいですか?」
後ろから声がしたので、幸助はチョークをもったまま手を止めた。
振り返らなくてもわかる。まただ。
周りの生徒に気づかれないように、ため息を吐くと幸助は声の主を見た。
窓側の一番後ろの席の七井が右手をあげている。
左半分の顔をもう片方の手で覆い隠し、訴えかけるような眼差しを幸助に向ける。
うんざりだ。
幸助はそう思ったが邪険にはできない。
「行きなさい」
七井は無言で席を立つ。
彼が無言なのも毎度のことだ。
教室から出て行くのを見届けることなく、授業を再開した。
教師といえど人間である。
表に出さないだけで苦手な生徒だっている。
幸助にとっては七井がそうであった。
他の教師に聞けば彼に対する評判は悪くない。
挨拶もするし授業も積極的に受けているという。
それならば何故、自分の授業の時だけ退室するのか。
それは授業がつまらないという意思表示なのではないか。
そう幸助は思っていた。
そして、ますます七井という生徒に対する印象は悪くなっていく。
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