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ある日、授業中に七井がいつものように具合が悪いと発言した。
もう残り十分もないタイミングだった。
幸助は苛立ちを隠して七井を見た。
彼はいつものように顔の左半分だけ手で覆い、いつものように訴えかけるような眼差しを向けている。
いつものように、いつものように、いつものように!
幸助は頭の中で、そう怒鳴る。
「七井。今から説明する箇所はテストにも出る重要なところだ。それでも、我慢できないのか?」
「はい。保健室に行ってもいいですか?」
「どうしてもなんだな?」
「はい」
「…。わかった。後で話がある。具合が良くなったら職員室に来なさい」
幸助の言葉に答えないまま、七井は教室を出ていく。
もう我慢の限界だった。
どうしてやろうか。
そんなことばかりに考えを張り巡らす。
放課後、七井は何食わぬ顔で幸助のもとにやってきた。
自分がどうして呼ばれたのかわからない。
そんな様子に幸助の口の端がひきつる。
なんとか気持ちを抑えて七井に問いかける。
「おれの授業はそんなにつまらないか?」
「いいえ。何故ですか?」
「具合が悪くなるのは、いつもおれの授業の時だけじゃないか。何が気に食わないんだ?」
「何も。普通の授業です」
普通。その単語を幸助は嫌っていた。
好きでも嫌いでもない。
どうでもいいと言われているようなものだ。
それを気に入らない生徒に言われたのだ。
七井の襟首を掴み投げ飛ばしたい。
そんな衝動に駆られる。
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